これは僕と彼女の軌道
 放課後、1階の生徒会室で仕事をしてた。下校時間まで30分ほどあるが、まだまだ仕事が残っているため、家に持って帰ってやることにする。

 今日はもう誰も学校に居ないのか、校舎には静けさが漂っていた。

 廊下を歩きながら、何とはなしに窓の外を眺める。そうすると、窓のすぐ近くに位置する花壇に、まだ帰っていない生徒が1人居た。もう6時を過ぎているため薄暗いのと後ろ姿で誰だか認識できないが、帰る素振りを見せないその生徒に注意しようと急いで花壇に向かう。

 花壇に近づき誰だがわかった。風無さんだった。彼女は、花壇の前に座り何かをしているようだ。

 一瞬、面倒な人だろうから関わりたくないなとも思ったが、生徒会として見過ごすわけにはいかないと、警告する。

「風無さん、下校時間まで後30分もありません。早く帰ってください」

 彼女は今の忠告で振り返る。だが、すぐに目線を花壇に戻した。

「ちょっと待って。花壇直してから」

 彼女のその言葉で、僕は花壇が荒らされていることに気づいた。草花や土が踏みつけられた痕跡が残っており、仕切りに使われているレンガまで壊されて破片が土に埋っていた。レンガ以外大分修復されてはいるが、無残な光景だった。

 今朝見たときは花壇はこんな状態じゃなかったし、紊乱されたら生徒会に話がいくはずなのに、一体何があった?

「なんかね、3年の不良の人が今日の休み時間に機嫌が悪くなったらしくて、放課後憂さ晴らしに花壇をメチャクチャにしたんだって」

 成程。今日の放課後なら、本日中に話が入るとは限らない。そこを狙ってあの先輩は花壇を荒らしたのだろう。話がくるのが遅ければ、自分が犯人であることを隠蔽しやすいから。

「けど、花壇をこんなにするほど機嫌が悪かったのはどうしてかな?」

 原因は君だよ。今日の休み時間に3年の不良生徒が不機嫌になるような事件はあの1件しか心当たりがない。機嫌を損ねたという自覚がないのかな?

「聞くけど、風無さんは誰かに言われて、花壇を直しているの?」

「違うよ。花壇が荒らされたつて話を小耳に挟んで、可愛そうだなっと思ったから」

 レンガまで壊れているのに、わざわざ直すなんて。原因は確かに彼女だが、実行犯は3年の先輩で、彼女が気にすることではない。まあ、その部分に関しては気にしていないか、さっき原因が自分にあるという自覚はないような発言をしていたから。

「風無さんが直す必要はない。花壇の管理は係の仕事。それに、レンガまで破損しているから、明日になったら先生が業者を呼ぶよ」

「それじゃダメ。花壇がこんなに荒らされているの見たら、悲しい思いをする人が出てくるから」

 意外だな。彼女は普段の行動から、僕以上に人に興味がない人だと思っていた。こんな慈善的な人だったとは。よくよく考えれば、そういう人じゃなかったら、休み時間にあの1年を庇うわけないよな。龍也もそう言ってたが、まだあの時は3年の先輩にケンカを売るような真似をしたことに対しての印章が強すぎて、怯臆していたから。

 それでも、下校時間以降まで生徒を残すわけにはいかない。帰るよう促すために、再び声をかけようとしたが、彼女の次の言葉に遮られた。

「今やらないと、忘れるかもしれない」

「…」

 その言葉は、さっきまでの花壇を必死で治したい一生懸命さとは違い、か細く弱々しい。目には憂い映っているいように思え、無理に止めさせるのが酷になった。

「他に必要な道具やものは?」

「⁉」

 無心に花壇と向き合っていた彼女は驚いた表情で僕に顔を向けた。

「手伝ってくれるの!」

 彼女はまるで子どもが親に構ってもらえたときのような、はじけた笑顔を見せた。

「このまま放っておくわけにいかないだろ」

「ありがとう。あと必要なものはないよ。レンガは流石に私たちじゃ直せないから、取り合えず無事だったお花さんたちを一度取り出して土を綺麗にしよ」

「折れたり、ぐちゃぐちゃになったやつはどうする?」

「お家に持って帰って、家の庭の肥料にするよ。乾燥させればできるから。それじゃあ、作業再開!」
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