これは僕と彼女の軌道

~風無 暦の日記 天地始粛~

8月28日

 昨日から歩くんと一緒に竜弥くんの宿題を見た。竜弥くんは勉強が嫌いで集中力も短いから、直ぐに飽きてやめてしまう。

 だから、集中力が上がる曲を弾いてあげた。


 2人が帰ったあと、ママのことを思い出した。

 ママはある日突然、いなくなってしまった。理由は覚えていない。

 追憶すると、拒絶反応を起こしたように頭痛がしたり、頭が真っ白になる。

 寂しさや喪失感を埋めたいときは、お母さんが大好きだった『亡き王女のためのパヴァーヌ』を弾く。

 ママ。今、私はママのように綺麗な演奏ができているかな?



8月31日

 最終日には、みんなで花火をした。

 多分あったことのない女の人もいて驚いたけど、記憶障害を患っている私にも気兼ねなく接してくれた。

 楽しいけど、久々に歩くんと2人きりになりたくて、抜け出しちゃった。

 私の部屋のベランダだから眺める花火は格別に綺麗だった。

 だけど、歩くんが私に何かを行ったあとから、花火に集中できなくなった。

 とても、胸がドキドキする言葉をくれた気がするけど、思い出せない。

 名前を呼び捨てで呼んでくれた気もするのに、自信がない。

 次会うとき、どんな顔をすればいいのだろう?

 花火のように弾けた心はまとまりがなくなって、身体中を火傷させる熱を帯びていた。
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