これは僕と彼女の軌道

〜風無 暦の日記 草露白〜

9月8日

 新学期が始まってから、8日たった。

 学校にはまだ行けていない。

 たまに、ママが死んでいく夢を見ると、悲哀感に苛まれる。身体も動きたくないと訴えて、ついベッドに篭りがち。

 だけど、今回は歩くんにどんな顔で会えばいいのかわからなくて、ずる休みが続いていた。

 夏休み最後の日。花火を見ながら、彼は何か大事なことを言って、呼び捨てをした。私の勘違いかもしれないけど、本当にあったかもしれないと思うと顔が熱くなって、胸のドキドキが止まらない。

 同時に憶えていないことが悲しかった。きっと勇気を持って伝えてくれた歩くんへの申し訳なさもあるけど、単純に彼からもらったものを零した自分の脳が疎ましかった。後者の方が明らかに大きい。

 メランコリックな気持ちになっていたら、前触れなく歩くんが来た。じいやが勝手に入れたみたい。歩くんだけは絶対に入れないでって言ったのに!

 喋らないでいたら、歩くんが帰りそうになった。

 行ってほしくなくて、ベッドからジャンプして跳び付いた。

 久々に肌で感じた人の温もりに安心感を抱いていたら、歩くんが私のことをさん付けで呼んだ。

 その事実に、花火のときのことは夢で見た幻の記憶と混同しているんだと思えた。

 そしたら不安が戻ってきて、思わず呼び捨てで呼ばなかったって聞いてみた。

 否定されると思っていたのに、あっさり認めた。

 呆気に取られて、問い詰める。だけど、歩くんははっきりとした答えを言わない。

 そしたら、一気に不満が膨れ上がった。私はあなたのことでこんなに悩んでいるのに、誤魔化そうとしている彼に。

 思わず声を荒げた。人に怒鳴ったのは初めてかもしれない。

 だけど、その後の一瞬の出来事はわからない。

 憶えていなかったから、じいやたちに聞いてみたけど、みんなも私に隠し事をする。もう、プンプンだよ!


 わからないまま、歩くんは帰ろうとした。だけど、去り際に『暦』って呼び捨てで呼んでくれた。

 しかも、『また、明日』とも言ってくれた。

 歩くんはまた会いたがってくれた。

 悩んでベッドの籠っていたけど、私も会いたいと思っていた。


 胸の高鳴りが増す。明日、彼に会ったら、この思いをもっと膨れ上がって、破裂してしまいそう。
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