Romantic Mistake!
旅にハプニングはつきもの
ついに到着した。新千歳空港。
国内線ターミナルの窓から外を眺めると、室内にもかかわらず肌がピリピリとするほどの寒さを感じた。うっすらと積もる雪も見えている。やっと北海道へ来た実感に、心が躍る。
仁科麻織、二十六歳。
老舗靴メーカー『株式会社アサクラ』の役員秘書として勤めている。
ボスが休みにうるさく、今まで休暇といえば常に仕事の電話がかかってくる気の休まらないものだったが、今回、なんとか三日間の連休をもぎとった。
栗色のロングヘアはゆるく巻き、膝まで隠れる白いコートに身を包み、雪の中まで歩けるブーツを履いて。いつものオフィススーツ姿の私ではない、ひとり旅の装いでやって来た。
一日中仕事に振り回されてプライベートはあってないような私だって、本気を出せばナンパくらいされちゃうんだから。もしかしたらこの旅で、いい出会いがあったりして。
しかし空港に到着してわずか十五分。スーツケースを受け取った後の移動中に、ボスであり御曹司でもある朝倉英一郎からさっそく着信が来た。出るか出ないか選択をする前に手が勝手に動き、気づけば出ていた。
「はい。仁科ですが」
『おい! スケジュールのファイルはどこにあるんだ!?』
喧嘩腰の苛立ったボスの声。私よりたったふたつ歳上なだけなのに、まったくいつも偉そうなんだから……。
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