Romantic Mistake!
軽い気持ちで手を入れ、中に入っているものを取り出してみる。書類の束、それも端が留められた冊子だ。
【サファイアの大地 ユリウス編(極秘)】
表紙にはそう書かれている。
『サファイアの大地』は、先月発売された大ヒット中の冒険小説。私も買って読んだから知っている。登場人物は三角関係で、ラストでヒロインが幼なじみのユリウスではなく王子のリチャードを選ぶ。作者があとがきで、実はユリウスと結ばれるはずだった当初のボツ原稿『ユリウス編』が存在すると明かし、SNSでも大盛り上がり。
……じゃあ、この書類は?
私は心臓をバクバクさせながら、パラパラと冊子をめくってみた。
……嘘でしょう。これ、本物の原稿だ。見てはいけない気がして、とりあえず閉じて封筒へ戻す。
封筒を抱きしめ、私は冷や汗が止まらなくなる。あの人、何者なんだろう。 編集者かなにかだろうか。
さらにほかの荷物を探ると、キャッシュカードほどの大きさの小さな箱を見つけ、開いてみる。やっと見つけた。名刺だ。
【株式会社桜庭屋 都市開発部 部長 桜庭颯介】
肩書きを見て、思わず「わぁ」と声が漏れる。