Romantic Mistake!

「三十分後の羽田行にキャンセルが出ておりますので、今すぐ搭乗されるなら間に合います」

「三十分後! それでお願いします」

「ファーストクラスのお席ですがよろしいですか?」

「ファーストクラス!?」

どうする……どうする……。ええい、もうこれに乗るしかない!

「お願いします!」

私は涙を滲ませながらクレジットカードを差し出し、手続きを終えた。切符を握りしめ、ゴロンゴロンとスーツケースを引っ張ってゲートへ走る。走りながら通話中のスマホを耳にあてた。

「聞いてましたか桜庭さん。スーツケース、私が届けますから! 飛行機で!」

『え、そ、そんなことをしていただくわけには……!』

「大事なものなんでしょう? 私はただの旅行ですからお気になさらず。空港へ到着したらどこへ届ければいいですか?」

『仁科さん! 待ってください!』

電話口から桜庭さんの戸惑いが伝わってきた。荷物が手もとになくて、焦るよね、心配だよね。よくわかる。私も仕事で何度ボスに無茶を吹っ掛けられて、顔面蒼白の事態になってきたことか。予期せぬ出来事に揉まれて、誰かに助けを求めたくなる気持ち、私にはわかる。

こんなときは助けを求めていいんだよ、桜庭さん。
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