Romantic Mistake!
「なんだか想像と違うお嬢様ですのね。颯介さんとお話は合うのかしら?」
ちくり、と丁寧な言葉が刺さる。そう思いますよね、と私も賛同しつつ、この失礼な女性をどうにかしてくれと颯介さんに視線で助けを求める。彼はまったく動揺せず、まぶしい笑顔で返した。
「ええ。老舗靴メーカーに百貨店、とても話が合いますよ。彼女は優しく聡明で、話しているだけで楽しいです。ね、麻織さん」
彼の熱い眼差しにキュンと胸が高鳴った。演技だとわかっていても、ときめきすぎてこちらはコクンコクンと首を縦に振るだけで精一杯になった。
女性はおもしろくなさそうにコホンと咳払いをし、「それなら」と私を手のひらで指す。
「お噂によれば、婚約者さんはピアノがお上手だとか。それもプロ並みとお聞きしましたわ」
えっ。ちがう、それはきっと桃香さんだ。私は戸惑って颯介さんに視線をやると、彼も眉がピクリと動いている。
「偶然、あちらにピアノがありますし。ぜひお聴きしたいわぁ。お願いできます?」
オブジェだと思って今まで目に入っていなかったが、彼女の示す先には装花に囲まれるようにして黒いグランドピアノが置いてあった。