Romantic Mistake!
ピアノと私たちを遮るようにして、颯介さんが割って入る。
「申し訳ありません。あちらのピアノは許可がなければ弾けませんので、残念ですが、急にはちょっと」
助かった。そう思ったのも束の間、女性は「それなら」とちょうどシャンパンを持ってきた男性従業員に声をかけた。
「じゃあ聞いてみるわ。そこの方、あちらのピアノを弾いてもいいかしら?」
困ったことに「もちろんです」と返事をした彼がさっそくピアノの鍵盤を開き、カバーを外してしまう。露わになったピアノの存在に、ゲストたちは「なんだなんだ」と集まってきた。
そっと隣を見上げると、颯介さんの額には汗が滲んでいる。近くの小野さんと目配せしており、その小野さんも策が尽きたのか死にそうな顔で今にも倒れそうだった。
「さあ、婚約者さん、聴かせてくださる? それとも、ただの庶民の習い事レベルの腕前を、プロ並みとおっしゃってしまったのかしら?」
颯介さんは私の手を握りしめており、焦っているのが伝わってくる。手詰まり、ってことなのだろう。きっとこの女性も大切な取引先なのだから、ここで失態を見せるわけにはいかないはずだ。私は覚悟を決めて、深呼吸をした。
「……わかりました。弾きます」