Romantic Mistake!
会場の小さな声は止み、皆が私のピアノを聴いている。女性の言った通り私の腕は庶民の習い事レベルかもしれないけど、感動を届けられるよう心を込めて弾こう。お嬢様のようにはいかなくてもいい。颯介さんは胸を張って私を紹介してくれたのだから、それに応えたい。
最後の音がポーンと響き、細く消えていく。
弾き終えると足が震えていた。静かになって我に返り、聴衆と対峙するのが恥ずかしくて、顔が上げられない。ああ、このまま消えてしまいたいーー。
しかし次の瞬間、会場はワッと歓声に包まれ、拍手が鳴り響いた。
「えっ」
座ったままキョロキョロと見回す私だったが、取引先の重鎮さんと思わしき人々に「ブラボー!」と手を取って前へと促され、引っ張られるままに立ち上がって一礼する。
「とても綺麗な音色でした! こんなにお上手だとは!」
「感動しました! 才能にあふれた素敵な婚約者さんだ!」
握手を求められてそれに応え、綺麗な服を着た人々の中心で揉みくちゃにされる。大げさに称賛されて照れくさくなったがそれ以上に褒めてもらえてうれしくて、気づけば私も笑顔になっていた。選曲がよかったのだろう。バッハに感謝だ。