Romantic Mistake!

聴衆からやっと解放され、少しハイになりながら主催席へと戻る。颯介さんが立ち尽くしたままこちらを見ていることに気づき、私は苦笑いで近づいた。

「フフフ。実はピアノ弾けるんです。庶民の習い事レベルですが、なんとかなりました」

いたずらが成功した子供のように笑ってみせたが、颯介さんは呆然としたまま動かない。

「……麻織さん……」

熱い瞳で、じっと私を見つめている。どうしたんだろう。胸が高鳴り、私はドキドキに耐えきれずに目を逸らした。

「緊張しましたが、べつに嫌じゃなかったので気にしないでくださいね。こんな素敵な場所でピアノを弾く経験はなかなかできません。あー気持ちよかった。颯介さんの婚約者って、楽しいことがいっぱいですね」

結果的にはオールオッケーでしょう!と勢いにまかせてとびきりのスマイルをする。彼は「う、うん」と小さく返事をするだけで、その後はまるで上の空だった。……なにか私まずいことしたかな。
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