Romantic Mistake!

「……僕はね、羽田に着いて荷物が入れ違っていると気づいたとき、死ぬほど焦ったんだ。作家さんが僕を信用して預けてくれた未公開原稿を失くしてしまったから」

私は「ええ」とうなずく。よくわかる。

「不安でしたよね」

彼も「ああ」とうなずいた。

「一瞬でいろいろなことを考えたよ。原稿を手にしたきみがネットに拡散してしまったらどうしよう、とか。作家さんへの申し訳なさや大切なものを手荷物にしなかった自分への後悔で、押し潰されそうになっていた」

「……はい」

「だからきみが、旅行を取り止めてまで原稿を届けると言ってくれたとき、僕は涙が出るほどうれしかったんだ」

両手を束ねられ、ギュッと握られる。

「颯介さん……」

「麻織さん。きみは素晴らしい女性だよ。こんなに優しい人を僕は見たことがない」

なんてうれしい言葉だろう。今日一日の気持ちすべてが報われた気がした。こんなにストレートに心に響く言葉をくれる人は、私も初めてだ。
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