Romantic Mistake!
これは弁償するつもりのお金だろうか。それにしても三万円は多すぎる。クリーニング代ならかかっても数千円だし、このコートだって一万円もしない安い物。そもそも、ぶつかったのはお互いさまなのだから、お金は必要ない。
「いただけません! 安いものを買って凌げますから」
「そんなわけにはいきません。申し訳ありませんが本当に時間がないので、これで収めさせてください。さあ、受け取って」
彼は強引に三万円を私の手に握らせた。手と手が触れてドキンとし、無意識に握り返して受け取ってしまう。
「わっ、ちょっと待って……」
彼はよほど焦っていたのだろう。手を伸ばす私を振り返らず、スーツケースを掴んで去っていき、すぐに見えなくなった。
「行っちゃった……」
取り残された私は、手の中の三万円を見つめて呆然とする。どうしよう、お金を貰ってしまった。……とても素敵な人に。
とりあえずコーヒーのついたコートは脇に抱え、カフェでオムライスを注文した。なに、旅にハプニングはつきもの。こんなこともあるよね。私はそう思って頭を切り替え、先ほどの彼の焦りっぷりにフフフと笑みをこぼした。