Romantic Mistake!

思い出すため、「ううーん」と唸ってこめかみを指で押した。

飛行機を降りてスーツケースを受け取ったときはすぐに中を確認したから取り違えてはいない。それ以降、きちんと持ち手を握ってここまで運んできたはずだ。唯一、手を離したのは、たしかーー。

「あのイケメンとぶつかったとき!」

記憶を呼び起こしてみると、彼もそっくりな黒いスーツケースを持っていた。間違いない。彼のものと入れ違っている。

私は勢いよく立ち上がり、三百六十度をキョロキョロ見回した。いない。そりゃそうでしょう、一時間ほど前の出来事だったし、彼はターミナルビルの向こう側へ行ったのだ。

彼が搭乗すると言っていたのはたしか羽田行きだった。まだ間に合うかな?とすばやく頭上の電光掲示板へ目を移したが、羽田行きはもう出発してしまった後だった。遅延もない。……え、これどうしたらいいんだろう。

「よし、オッケー。落ち着け私。ふー」

もう一度、ベンチに座り、スーツケースをいったん閉じて立てた。
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