Romantic Mistake!
なかなか白状しないボスに痺れを切らした私は、掴みかかりそうな勢いで「いったい、なにが、あったの、え!?」とボスの肩をガタガタと揺らす。やがて彼は観念し、腹の立つ焦った笑顔を浮かべてつぶやいた。
「あー、契約印が見当たらねえんだ。朝、新宿の契約で使って、会社に戻ってきたら失くなっててさ」
「……へ?」
「新宿に引き返して立ち寄ったところを探したけどどこにもないから、今から戻るところだったんだ」
驚きすぎて、彼から手を離し、フラフラと立ち尽くす。
「契約印を失くしたって……本気ですか? あの立派な象牙の、大きい印鑑を?」
私は手を使って、印鑑の大きさを示す。ボスは気まずそうにウンウンとうなずく。予想外の事態になっていて、頭が真っ白だ。
ふと時計を見ると、午前十一時になっていた。……箱根行きのロマンスカーは何時だったっけ? 嘘でしょう、私が話に夢中になっている間に、電車が行ってしまった。
「そ、颯介さん、すみません、私が話し込んでいたから……」
そばに立って待っていてくれる颯介さんにヨロヨロと近づいたが、彼は私の背中に触れて、「大丈夫。きみの仕事の方が優先だ。続けて」とボスの方へそっと押し戻す。怒ってないと信じていいのだろうか。