Romantic Mistake!
事態の深刻さが伝わらず、呆然とする。この人にまかせていたらいつまでも見つかる気がしない。
とりあえず鞄を奪い、中や外のチャックをひとつひとつ開けて確認する。たしかにない。次に「どこ触ってんだ」と文句を言われながら彼の服のポケットというポケットに手を突っ込んで探ってみたが、やっぱりない。
「失くした場所に心当たりは?」
「新宿駅で買い物したからそこは見てきた。あとはベリーヒルズビレッジに寄ったかな。オフィスビルの中を歩き回ったからどこにあるかはわかんねえけど」
「ベリーヒルズって……。一度会社に戻ったと言いましたよね。会社は探しました?」
「いや探してない。だって会社に戻ってからは見てねえもん」
くらりと目眩がし、私はついにボスの胸ぐらを掴んでガクガク揺らす。
「そういうのはまず身近なところから潰し込んでいくんですよ! 会社から探してください!」
「あーあー、わかったよ。じゃあ一緒に会社に戻るぞ麻織、ほら」
「え!?」
ボスに手首を掴まれ、改札の中へと引っ張られ、ずりずり引きずられていく。視界の中の颯介さんがどんどん遠くなり、やがて見えなくなる。
「颯介さん! ごめんなさい! 行かないで……」
颯介さんが離れて行ってしまったのかと思い涙声で叫んだがそれは勘違いで、こちらが引きずられているだけで彼は動いてはいなかった。しかし、これからデートの約束をしていたのに、この別れ方はさすがに失礼すぎるだろう。
しかし、このまま箱根には行けそうにない。印鑑を探さなきゃ。
「ごめんなさい、颯介さん……」
優しい彼でもさすがに怒っただろう。幻滅されたかもしれない。わかっているのに、私はボスとともにまた山手線へ乗るしかなかった。