Romantic Mistake!


やっとアサクラのオフィスに到着した。

ボスは本社と分かれたこの東京営業所の所長を任されており、私と少人数の社員とともに、都市部へ店舗を展開するための営業をしている。私がいないと、ボスは本当になにもできない。この人の世話を押し付けた社長を一生恨んでやる。まさか印鑑を失くし、私の恋路まで邪魔をするとは思っていなかった。

「さあ、探しますよ。デスクもチェストも中身を出してください。予備のスーツも鞄の中も全部。探した場所とまだ探してない場所をきちんと分けて」

「戻ってからは触ってねーよ。探してもないと思うけど」

「わからない人ですね。ないと思っている場所に百パーセントないということを確認するんですよ。探し物の基本!」

ボスはぶつくさ言いながら、私の指示通りに動き始めた。

作業に没頭すると気分が落ち着いてきた。どうせ、「悪い悪い。あったぞ」とどこかから出てくるに決まっている。あんな大きな印鑑、さすがにボスでも会社以外の道端で落としたりはしない。……と、思う。

「あ!」

不安に包まれるとちょうど、チェストの中身を出していたボスが声を上げた。私はホッと胸をなでおろす。ほら、やっぱりあったでしょう、そうして彼を振り返るが、彼の手には印鑑ではなく、真っ黒な弔事用のネクタイが握られていた。
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