Romantic Mistake!

〝印鑑〟。

まさに今探し求めているキーワードが出てきてギクッとし、インテリアの影に隠れ、彼女たちの話に聞き耳を立てた。

「大きめの、象牙の印鑑だっけ? さすがにそんなものが落ちてたら気づくはずだから、ここにはないのかな……。でも、珍しいね。桜庭部長が売り場に頼みごとをするなんて滅多にないのに」

「そうだね。いつも労ってくれるし、無理な営業を指示したりしないで一緒に考えてくれるもんね」

「うん。それが今回は『お客様の大切な印鑑がないか全従業員で探してくれ。探したはずの場所から後日見つかるようなことは許さない』って言うんだもん。なにかあったのかな」

そんな。颯介さんが印鑑を探すよう店舗に指示をしてくれたなんて。信じられず、開いた唇を指で触れる。

「でも、そう言ってきた桜庭部長、格好よかったなあ。なにかを守ろうとしてる感じで」

「うんうん、わかる。それに、今まで私たち社員にすごく優しくしてくれたから、こういうときこそ桜庭部長の力になりたいって思っちゃうよね。今、桜庭屋だけじゃなくて、このビルの全フロアが協力して探してるんだって。きっと皆、桜庭部長の力になりたいって思ってるから」
< 80 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop