Romantic Mistake!
和やかな空気になったところで、颯介さんはふいに社長へと手を差し出す。
「朝倉社長。ぜひ今度ゆっくり、そちらの製品についてお話しさせていただけますか。我が社とのお取引を見据えて」
おお、すごい。商談だ。社長もパッと表情が明るくなり、ボスも「え」と声を出す。
「もちろんでございます! うちも以前からアプローチさせていただこうと思っておりました」
「このような形でご縁があってよかったです。ご来店してくださった所長さんのおかげですね」
彼はイヤミのない笑顔をボスへ向け、ボスもほんのり照れくさそうな表情を浮かべている。リップサービスだぞボス、と心の中でつっこむ。
これには驚いた。颯介さんたら、さすがやり手のビジネスマンなんだから。私はしばらく、ぬかりのない彼の横顔にポーッと見惚れていた。
やがて社長とボスは帰っていったが、私はここに残った。
彼らが帰ってすぐに颯介さんは「小野さん」と名前を呼び、小野さんは「はい」と返事をしてから懐のスケジュール帳を開いてなにかを確認し、「大丈夫です」と答える。彼はそのタイミングでは音も立てずに応接室から出ていき、私と颯介さんはふたりきりとなった。
誰もいなくなったとたん、後ろからふわりと抱きしめられる。
「麻織さん。あと少し、夜まで一緒にいてくれる?」
あたたかい温もりに包まれながら、私は目を閉じ、「はい……」と答えた。