アオハルの続きは、大人のキスから
10
スタッフルームに久遠を案内した小鈴は扉を閉めたあと、彼を振り返る。
「久遠さん」
「待て、小鈴。俺に弁解の余地をくれ」
小鈴が自分の気持ちを告げようとするのを、久遠が慌てて止めてくる。
開きかけた口を閉じる小鈴を見て、久遠は真剣な表情で説明し始めた。
「小鈴も知っての通り、このベリーヒルズビレッジを所有している旧財閥である如月家は俺の親戚になる。叔母が当主を務めている」
「……久遠さんが、継がれるんですか?」
「いや、俺は継がない。大丈夫、如月家には娘が二人いるんだが、とにかく豪傑で。あの二人で如月家は安泰だ」
なんでも、上の娘は来春結婚予定で婿入りする男と如月家を守りたてていくことを決めているという。
それに、下の娘もかなりのキャリアウーマンで久遠の出番ではないらしい。
「古くさい大人どもは、女に如月を守れるかって言う輩がいる。そいつらが勝手に俺を祭り上げて如月を継がせようとしていただけ。俺は如月を継ぐ気はない」
「そう、なんですか?」
「ああ。俺に如月を継いでもらいたい輩たちが、勝手に噂を立てて誠にしようと動いていただけだ。面倒くさいからそのままにしていたツケが、ここで払わされることになるとは思わなかった」
疲れた様子で肩を落とす久遠に、小鈴は「でも!」と言い募る。
「久遠さんがベリーコンチネンタルに来たのは、もっぱら旧財閥家を継ぐためだって噂されているっぽいですよ?」
「勘弁してくれ。俺は、俺の力だけでGMの座についた。あそこのホテルは、ベリーヒルズにあるが、オーナーは如月じゃない。本店はイギリスで、外資系のホテルだ」
ホッとしすぎてなにも言えない小鈴に、久遠はジロリと訝しげな視線を向けてくる。
「じゃあ、なにか? 小鈴は俺のバックの力を使ってGMに就任したと思っていたということか? 俺に力がないと?」
「そんなことないです。久遠さんがどれほど努力してGMになったのか。見ていればわかります!」
GMとしての役割、そしてホテルマンとしての仕事への情熱。それらは何度も見かけて知っているからだ。そう伝えると、彼は目尻を下げる。