アオハルの続きは、大人のキスから


「ありがたいお話しですけど……。私、きっと結婚に向いていないと思うんです」

 残念そうなマダムを見ると心が痛むが、この言葉は嘘ではない。
 小鈴は名残惜しそうなマダムをお見送りしたあと、自分の胸に残されている小さな恋の欠片を思いため息をついた。
 
 ここは、ベリーヒルズビレッジ内にあるショッピングモール。その一角には、浅草に本店を構える呉服店山野井の支店がある。

 仲濱(なかはま)小鈴は呉服屋の店員らしく、芥子色の生地に紅紫や白色の小さな萩の花が描かれている小紋を着て店頭に立っていた。

 腰まである黒髪をかんざしで止め、シャンと背筋を伸ばしている。
 小柄であまり凹凸がないスレンダー体型なので、着物との相性は抜群だ。
 それに、着物は大好きだ。だからこそ、日頃から着物ばかり着ていてあまり洋服を着ることはない。

 そんな小鈴は、高校三年生までは京都に住んでいた。だが、一人親だった母が亡くなり東京の叔父に引き取ってもらうことに。
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