アオハルの続きは、大人のキスから
「できないと思うけど? なんて言ったって、俺と小鈴は夫婦になるんだから。今から親密になっておかないと」
「……模擬結婚式で夫婦役をするだけですよね?」
久遠はただ、小鈴を揶揄って遊んでいるだけ。騙されてはいけない。
いただきます、と久遠に声をかけてから、出してもらったコーヒーに手を伸ばす。だが、その手はカップには届かず、久遠に掴まれてしまった。
「久遠さん?」
「俺は本気なんだが?」
「わかっています。……仕事で夫婦役を演じるんですよね?」
「どこがわかっているんだろうな、小鈴は」
「え? ……キャッ」
そのまま、久遠にソファーに押し倒されてしまった。
どうしてこうなってしまったのか。頭が混乱していてわからない。
ただ、わかっているのは、久遠が小鈴を押し倒してきていることだけだ。
小鈴が何度か瞬きをして久遠を見つめていると、彼は目元を緩めた。その優しげな笑みは、十年前と変わらない。
小鈴を慈しんでくれている、そう思えて以前から好きな笑みだった。
ドクドクと心臓の音が高鳴りすぎて、覆い被さって小鈴を抱きしめている久遠に気づかれてしまわないだろうか。それだけが心配だ。
小鈴がそんな心配をしているというのに、久遠はますます蕩けてしまいそうなほど甘くほほ笑む。
「小鈴、昨夜は俺の話を聞かずに逃げてしまったもんな。きちんと理解できていないか」
「……椿ちゃんから聞いて、模擬結婚式のことは聞いていますが」
ムキになって反発する小鈴を、久遠は小さく笑う。