アオハルの続きは、大人のキスから
昔から小鈴をかわいがってくれる叔父家族のおかげで、母の死を乗り越えることができた。本当に感謝をしている。
その上、叔父には何一つ不自由なく、大学まで通わせてもらった。
その恩を返すため、そして大好きな着物の世界に没頭するために、こうして叔父が経営する呉服屋の店員をさせてもらっているのだ。
あと少しで閉店になる。そろそろ片付けを始めようかと思っていると、久しぶりなあの人の声が聞こえた。
「小鈴ー! ただいま」
「椿ちゃん?」
「相変わらずかわいいヤツめ。今回は上海に行ってきたよー! 小鈴に似合う服とかお土産いっぱい買ってきたからね」
ギュッと力の限り抱きしめられ、「ギ、ギブ……!」と椿の腕を叩く。だが、猪突猛進、人の話は極力聞かないという彼女には届かない。
山野井椿、三十一歳。小鈴にとって大事な従姉だ。
椿は呉服屋山野井の跡取り娘なのだが、「私に和服は似合わない」と宣言して呉服と畑違いの会社を立ち上げてしまった凄い人である。
ゴージャス系美人の椿は、ファッション雑誌から飛び出してきたモデルのようで美しい。憧れの人だ。
昔から小鈴を妹のようにかわいがってくれる椿。彼女にだけは、高校生のときに付き合っていた男性のことが忘れられないということを話している。
胸中に止めておこうと思っていたのだが、椿があまりに私を合コンに連れ出そうとするので本当のことを話したのだ。
そのおかげか、最近では合コンの誘いがないのでホッとしている。
そんな椿の傍らには、大きなスーツケースとたくさんの紙袋。きっと海外へ商談に行った帰りなのだろう。