アオハルの続きは、大人のキスから

「……俊作か? どうして、彼女を」

 二人は知り合いなのか。不思議に思った小鈴だったが、すぐに腑に落ちる。

 椿と久遠が小中高と一緒だったのだから、俊作も二人と同じ学校に通っていたはず。知り合いだったとしてもおかしくはない。

 ただ、二人の様子を見ていると、旧友に久しぶりに会えたという喜びのようなものがない。それよりも、どこかいがみ合っているようにも見えた。

「私は今、呉服屋山野井で番頭見習いとして働き、このモール店の店主を任されているからだ。言わば、私と小鈴は上司と部下という間柄だ。なぁ、小鈴」

 急に話を振られて驚いたものの、慌てて頷く。すると、今度は俊作が久遠に問いかけた。

「で? うちの大事な従業員である小鈴と、お前がなぜ一緒にいる?」

 さすがに何度もホテルに足を運んでいれば、俊作が訝しがるだろう。そう判断した小鈴は、今夜ホテルに行く前に事情を説明しておいたのだ。

 しかし、二人が昔恋人同士だったということは伏せてある。
 小鈴に対して過保護な俊作のことだ。

 そんな話を彼の耳に入れたらなにかと心配される。
 だからこそ、模擬結婚式のことだけを伝えておいた。
 それなのに、どうしてこんなにけんか腰なのだろう。小鈴は、慌てて俊作に説明をし直す。

「あのね、俊作さん。蘭さんは、ベリーコンチネンタルホテルのGMなんです。それで、先ほどまで打ち合わせを」

「ホテルのGM」

「はい、そうです」

 これで変な誤解は解けただろう。安堵のため息を漏らそうとしたのだが、俊作の言葉に凍り付く。


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