アオハルの続きは、大人のキスから
「直系には女性しかいない。だから、いずれ蘭が継ぐことになるんだと思う。それは、周知の事実だ」
なにかが崩れる音がした。危うい足元は砂のようで、サラサラと崩れていく。そんな感覚がする。
久遠との出会いは京都の地だ。彼は大学生で、小鈴は高校生。カフェでバイトをし、そこで恋をした。よくある学生同士の恋だ。
学生の恋らしく、派手なことなど一切せず、ごく普通の恋人だったと思う。そのときの久遠は周りにいる大学生と何ら変わらず、実家が名家だなんて想像もしなかった。
唇が戦慄いてしまう。なにも告げることができず、頭になにも言葉が浮かばない。
「言っただろう、小鈴。蘭と一緒では苦しむ未来しか見えない、と」
「……」
「悪いことは言わない。少し冷静になった方がいい。蘭とは、模擬結婚式が終わったら会わないでくれ」
「俊作さん」
「お前は……私の妻になりなさい。幸せにするから」
握られていた手に、再び力が入る。だが、それを撥ね除けて小鈴は立ち上がった。
「……帰ります」
それだけ言うと、小鈴は俊作が止めるのを無視して山野井の母屋から飛び出した。