アオハルの続きは、大人のキスから


 山野井のこと、俊作のこと、そして久遠のバックについて。もう少し対処する時間、そして考える時間がほしい。それが小鈴の本音だ。久遠に迷惑をかけたくない、それに尽きる。

 なにかを思い、口に出したい思いを抱いているのかもしれない。久遠は小鈴を見て思っていることだろう。

 だけど、なにも言わずにもう一度キュッと手を握りしめてきた。

「なにかあったら、俺に言うように」

「久遠さん」

「色々考えてもいい。だけど、最後には俺に頼ること。十年前のことに後ろめたい気持ちがあるのなら、尚更だ」

「……はい」

 すぐに答えを引き出さず、こうして小鈴の気持ちを尊重してくれる。そんな久遠になにもかもを話して甘えたくなる自分がいないわけじゃない。

 だが、こうして考える時間をくれるということは、小鈴を信頼しているからこそだ。

 小鈴なら、きちんと自分で考えて答えを導くことができる。そんなふうに久遠は信じてくれているに違いない。

 もう一度頷いて久遠を見上げると「じゃあ、行くか」と久遠が席を立つ。

 それにならい小鈴も席を立ち、眼下に広がる景色を見る。ガラスには大粒の雨が打ち付けていた。

 ふと、バッグの中で震えたスマホを確認する。そこには、椿からのメッセージが。


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