アオハルの続きは、大人のキスから
9
タクシーは、浅草にある呉服屋山野井本店の前で止まる。支払いを済ませたあと、小鈴は店の中へと入っていく。
ちょうど客はすれ違い様で出て行き、店には叔母と叔父の二人だけだった。
「あら、小鈴。どうしたの?」
元気がない様子は叔母には伝わったのか。心配そうに小鈴の顔を覗き込んでくる。
優しい叔母に必死に笑みを浮かべたが、どうしても笑うことができない。
「小鈴?」
顔を歪めて泣くのを我慢している小鈴を見てただ事ではないと感じたのだろう。叔母は小鈴の背中を優しく擦ってくれる。
その優しいぬくもりが嬉しくて、切なくて……申し訳なく感じる。小鈴は叔父に頭を下げた。
「叔父さん、ごめんなさい。私は、山野井を継ぐことはできません」
「……」
「え? 小鈴? どういうこと?」
叔母は初耳だったらしく、驚いた様子だ。どうやら今回の一件は、叔父の独断で動いていたのだろう。
小鈴と叔父を交互に見やっては、叔母は困惑めいているようだ。
なにも言わない叔父に、小鈴はさらに続ける。