キス、涙々。



……昨日までのわたしは本当に滑稽だったと思う。


わたしなんかが誰かに好かれるわけがない。

わたしなんかが、誰かと友達になれるわけがない。


すこし考えたらわかることだった。


身の程を知れ、ってあれほど言われてきたはずなのに。



「あれ?ぐず子じゃん」


その声を背中に受けるまで忘れていた。

ほぼ反射的に振り返ってしまったのは、きっとあの頃のなごり。


自分とはちがう制服が男女あわせて5人ほど。

何人かに見覚えがあって、その中心にある顔だけは


……一日も忘れたことはなかった。



「っ、!」


走り出そうとしたわたしを止めたのは誰かの蹴りだった。

背中に衝撃を受けて、そのまま転けるように膝をつく。



「逃げんなよ。せっかくの再会じゃない」

「……長野(ながの)さん」

「ちょーっとお話しよっか。ねぇ?ぐず子」



蹴られた背中よりもずっと、心臓が痛かった。


< 116 / 253 >

この作品をシェア

pagetop