キス、涙々。


その理由は聞かなくてもわかったんだと思う。

会長の目元に小さな光が溜まっていく。

それがこぼれ落ちるより先に、俺はぽつりと呟いた。



「大丈夫だよ。誰が何と言おうと、ヤオがいちばん好きなのは会長だから。今までも……これからも」


いつもは気丈に振る舞っているけど、こうして肩をふるわせて涙を流す会長に不謹慎ながらどこか親しみを覚える。


……ああ、そうか。この人、似てるんだ。

──────……に。



そのとき、いままで黙っていた加賀屋がふっと笑った。



「へえ。あいつ以外の前でも笑えるんだな、さくら」

「お前は俺をなんだと思ってるの?」

「そうやっていつも笑ってたほうが可愛げがあっていいぞ」

「その言葉、そっくりそのまま返すけど」





「ぐすっ…あたしのために喧嘩しないでよ」

「「してねーよ」」



ようやく、くすりと会長が笑ったそのときだった。


文系コースのほうから誰かの足音がして、



「あの、ちょっといい?」


ひとりの女子生徒が声をかけてきたのは。



「あ……遙佳(はるか)


遙佳、と会長に呼ばれたその女子生徒はなぜか気まずそうに目を伏せていた。

けど……ふたたび目を上げたとき、その目からなにか決心のようなものを感じた。



「あたし、神谷遙佳っていいます。話したいことがあるの」


真っ直ぐにこちらを見ていた神谷さんが、ゆっくりと口を開いた。


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