キス、涙々。
頭のなかはそれでいっぱいだった。
なんで、なんで?
わたしは怒ることがあまり得意じゃない。
怒りを覚えることさえ、めったになかった。
それでもどうしても許せなかった。
“お眼鏡にかなう”
“攻略”
“泣き虫なアユリちゃん”
そのひとつひとつが鋭利なナイフとなって、心の奥深くまで突き刺さる。
「わたしは……──、」
誰にも届くことのないつぶやきは宙に溶けて消えた。
──────アユリちゃん。
アユリちゃんは、わたしの第二の名前だった。