キス、涙々。


『アユリちゃんに似てるからって調子に乗らないでよね』

『え……?』


はじめて言われたのは中学生。

そのときわたしは、その名前を知らなかった。


アユリちゃん。

家に帰って調べるまでもなかった。



偶然ついていたテレビに、そのアユリちゃんが映っていたから。


年はそんなに離れていなくて、いま芸能界で最も注目されている清純派若手女優。


当時、過酷な苛めを受けていたわたしはテレビどころじゃなくて、だからアユリちゃんのことも知らなかった。



……たしかに似ているかも知れない。


MCにとつぜん話を振られ、控えめに笑うアユリちゃん。

そんな彼女にどことなく親近感を覚えたのは、それ一度きり。



いつからか、テレビで笑うアユリちゃんは顔をくしゃくしゃにさせていた。

彼女は小さな口をこれでもかと開き、楽しそうに笑っていたんだ。


高校を卒業したアユリちゃんが、女優業と並行してグラビア業をはじめたことを、わたしは高校入学直前に知った。


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