キス、涙々。


そんなことを、延々とみんなの前で聞かされる。

泣いたらだめだ。

きっとわたしが泣くのを長野さんたちは待っている。


ぜったいに思い通りにさせたくない。

だけどやっぱり、かなわなかった。



「っ、ぅ……」


鼻の頭に熱がこもり出して、視界に涙の膜が張っていく。

そして涙がほおを伝ったとき、嬉しそうな声がした。



────あーあ、泣いちゃった。


すぐに拭うけど、また新しい涙があふれてくる。

嗚咽だけは漏らさないように、と気をつけようとしたとき。


わたしはあることに気づいた。



「……?」


辺りがしずかだ。

去年とはちがって、会場がなんだかしずまりかえっていた。


思わず顔をあげて目を配る。


おどろいたのは、みんな気まずそうに目をそらしていたこと。



長野さんたち以外にこの状況を面白がっている人は……いなかった。


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