キス、涙々。


「あ?だれくんだって?」


かなり興奮しているのか、目を充血させながら詰め寄られる。


そのあまりの迫力に、下を向こうとしたそのときだった。

視界のはしに、茶色の何かを見つけたのは。



……あ、クマさんだ。


いま、このタイミングで見つけてしまうなんて。

制服のポケットにあるスタンプラリーのカード。


それを無意識のうちに触りながら、クマさんをじっと見つめる。


向こうもわたしを見つめているような気がした。



「……好きじゃ、ないんです」

「は」

「っあなたのことよく知らないし、好きでもないから付き合えない…です。それが理由じゃだ、だめですか?虐められて…たら、断っちゃ、だめなんですか」



不思議だった。

今日はなんだか、みんなの顔がよく見える。


世界が、すこしだけ広がって見える。


わたしがいままで気づかなかった部分も、いまはちゃんと目に映っているかのようだった。


< 151 / 253 >

この作品をシェア

pagetop