キス、涙々。
「あ?だれくんだって?」
かなり興奮しているのか、目を充血させながら詰め寄られる。
そのあまりの迫力に、下を向こうとしたそのときだった。
視界のはしに、茶色の何かを見つけたのは。
……あ、クマさんだ。
いま、このタイミングで見つけてしまうなんて。
制服のポケットにあるスタンプラリーのカード。
それを無意識のうちに触りながら、クマさんをじっと見つめる。
向こうもわたしを見つめているような気がした。
「……好きじゃ、ないんです」
「は」
「っあなたのことよく知らないし、好きでもないから付き合えない…です。それが理由じゃだ、だめですか?虐められて…たら、断っちゃ、だめなんですか」
不思議だった。
今日はなんだか、みんなの顔がよく見える。
世界が、すこしだけ広がって見える。
わたしがいままで気づかなかった部分も、いまはちゃんと目に映っているかのようだった。