キス、涙々。


「王子さま……じゃなくて、ハギくん。どうしてここに?というか、その格好どうしたの?」

「説明はあと。いくよヤオ」

「え、え、いくってどこにっ……?」


ぱっと彼の手を離したハギくんがわたしの腰を抱く。



「“どこか、ふたりだけになれる場所へ。お連れいたしましょう”」


どこか芝居がかって聞こえるセリフを言ったあと、にっこりと至近距離でほほ笑まれた。


さすがに心臓に悪い。

ドキッとしてしまったわたし。


観客席でも、女の子たちの悲鳴がいっそう強くなった。



「やばい、え、やばい!文科のさくらくんだよね?」

「う、うん……!めっちゃカッコいいんですけど……」


「でもなんか違和感ない……?いつもとなにかが違うような」

「そういえば、わら……」



前方座席のほうの会話がわたしにも聞こえてきた。



違和感?


いつもと違うところと言えば、この王子さまの格好。


それ以外に違和感なんて……と、そこまで考えたところだった。


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