キス、涙々。
なんて答えたらいいのかわからなくて、黙っていたときだった。
「卑怯者」
長野さんが、こちらを指さしたのは。
その攻撃的な瞳はまっすぐわたしに向けられている。
「こっちこいよ、泣き虫。男の後ろにかくれて卑怯だと思わないわけ?」
「っ、」
赤くなっているであろう目を、長野さんは憎らしげに見つめてくる。
怒りで燃えているような長野さんの目もどこか赤く見えた。
「そうやってすぐ泣いてさあ。あたしらみんなね、わかってんのよ。あんたがそうやって気を惹こうとしてること。たしかにあんた、可愛いよ。だから余計にムカつくんだよ。どうせ心んなかでは、あたしらのことバカにしてるんでしょ?」
“どうせ”
それも昔からよくかけられる言葉だった。
どうせすぐ泣き止むし。
どうせ大したことない理由だし。
どうせ気を惹きたいんでしょ?
女の子の朝は大変なわけ。わかんないでしょ?どーせ。
泣いてるわたし可哀想。みんな心配して~って思ってるんでしょ?どうせ。
どうせ高校でもその顔で男たぶらかしてんでしょ?
小さいときから、高校に入ってからも。
その言葉はわたしにつきものだった。