キス、涙々。


「どうせ甘やかされて生きてきたんだろ。親にも、周りの男にも」


長野さんの言ってることは正論でもなんでもない。

……暴論だった。


それでも彼女は本当にそう思ってるんだろう。


だからわたしのことが嫌いだし、イライラするんだ。

それはしょうがない。

嫌われるのは、しょうがない。



だけど、




「そっちが謝れよ。ごめんなさい、わたしが悪かったです、許してくださいって」


「や、だ……やだよ」

「は?」


わたしは震える足を一歩前に踏みだした。



「だって、悪いことして、ない……わたしだって、つらいこと…いっぱいあった」

「は、どうせ大したことないんでしょ」

「どうせって言わないで!」



びっくりしたのは長野さんだけじゃなくて、声を出したわたし自身もその声の大きさにびっくりした。


長野さんたちに反論したのは今日がはじめてだった。

こんなに大きな声を返したのだって。


わたしは深く息を吸う。



そして────



ずんずんと長野さんたちに近づいていき、直前で足を止めた。


< 169 / 253 >

この作品をシェア

pagetop