キス、涙々。
「それなら簡単だったわけだな」
「そうでもないよ」
「あ?……うわ」
俺はずっと握りしめていた手を開いた。
瞬間、ぼたぼたと血がたれて地面を汚す。
「こうでもしないと耐えられなかった」
「お前よく笑顔でいられるな……」
「もうすこし長引けば口も真っ赤になってただろうね」
い、と口の端を引っぱってみせれば、加賀屋はわかりやすく引いていた。
頭がおかしいとでも思ってんのかな。
俺はいたって正常なのにね。
「お、とと。借り物だから汚しちゃ駄目なんだよね、これ」
「お前、劇のほうは?」
「大丈夫。ちゃんと午前の部は終わらせてから来た。午後のは出るかわからないけど」
「出ろよ」
「あっはは、この手の傷が治ったらねぇ」
衣装を汚さないように、キョンシーの如く手を前に出したときだった。