キス、涙々。
「え」
「でもそんなことしてもヤオは喜ばない。だよね?」
「あ、当たり前でしょ!」
「痛い痛いって、ヤオ」
思わずぐっと押しつけていたのか、脱脂綿に赤がにじむ。
さすがにハギくんも痛かったのか困ったように眉をさげた。
「あ、う、ごめんなさい」
するとハギくんはふっと笑った。
「その言葉はもう聞き飽きたかなぁ」
風が吹くようなかろやかさだった。
わたしが言いやすいように、わざとそうしてくれているみたい。
出会った頃のいじわるなハギくんと、いまの優しいハギくん。
ふたつのハギくんがわたしの頭のなかでぐるぐる回る。
自分の二面性をみせてくれるハギくんは、本当にいつも幸せそうに生きていた。
楽しそうに笑っているハギくんを見ていると、わたしまで幸せな気持ちになってくる。