キス、涙々。
……そのかわり。
こうしていろんな人(主に女の子)にからかわれることが増えたんだよね……なんで?
「あのねぇ八尾さん」
女子生徒はきれいな緑色の瞳を楽しそうに細めた。
「これぐらいで恥ずかしがってたら萩くんを満足させてあげられないんじゃない?」
「へ、それってどういう意味……」
「こーゆー意味。耳貸してみて?」
言われたとおりに耳を貸せば、こしょこしょとそれを囁かれる。
その内容にわたしはびっくりして、熱くなった耳を両手でばっと押さえた。
「~っそん、そんなことしないです!!ぜ、絶対やらない!」
「ひゃあ~八尾さんが怒った~」
きゃらきゃらと笑いながらわたしから離れた彼女は、そのままひらりと舞う蝶のように校舎の中に入っていった。
……なんだかうまいこと躱された気がする。
手元の記録用紙に目線を落とし、わたしはため息をついた。
“ハギくん”
先日の保健室での出来事が、何度も頭のなかで再生される。
すこしだけ悲しそうに笑う、あの表情の理由がひどく気になった。
やっぱり進路のことで悩んでいるのかな。
わたしになにかできることがあればいいけど……
「……美晴ちゃんに相談してみよう」