キス、涙々。
「……いいの?」
不安になって声をかけたけど、ハギくんはなにも言わない。
つながれた手だけが、つよく、力を入れられる。
それはほんの一瞬で、気のせいかと思ってしまうくらいの変化だったけど。
「……嘘つき」
前から流れてきた消え入るようなつぶやきは、聞き間違いなんかじゃなかった。
不安になったけどハギくんは振りかえることも、返事をすることもなかった。
「は、ハギくん、ちょっと休まない……?」
「休む?」
「そう。休憩していくの」
「や、でもこれからバイトあんだよね」
ですよね、ですよね。
知ってるよ。
それでもいまのハギくんには休息が必要だと思った。
きょろきょろ、ぐるぐる。
頭をフル回転させる。
ハギくんは足を止めない。
後ろに流れていく景色の中で、そろそろ目までが回りそうになってきたとき。
視界の端にあまり使われていない教室がうつりこんだ。
……ええい、ままよ!