キス、涙々。


急ブレーキをかけると前を歩いていたハギくんも一緒に止まった。

と、いうよりはぐいと引っぱられるようになる。



「え、なに?」


さすがに困惑しているハギくん。

わたしはもっと困惑したまま、空き教室を指さした。



「ここ、わたしのリラクゼーションルーム……」

「なんて?」


「ハギくんバイト何時から?」

「17時半、だけど」

「じゃあ!……30分コースで」



ご新規イチ名様入りまーす……といったわたしの声はたぶん、この学校にいる誰よりも弱々しかったと思う。



ハギくんの手を引くとき。


そういえば、自分から手を引っぱるのは初めてかもしれない、と。


そんなことを考えた。


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