キス、涙々。


「で、ですよね。ごめんなさい。じゃあ記録だけつけておきます」



あわててバインダーの用紙に視線を落とす。

名前とクラスを聞いて、“爪”という項目にチェック。

ほかの委員は“×”を付けているんだけど、わたしはなんとなく“✓”にしている。

否定してるわけじゃないんだよ、っていうささやかで密やかな言い訳が9割。




「じゃあ明日までに落としてきてくださいね」

「はー…鬱陶し」



女の子たちは大きな舌打ちをしたあと、どんっとわたしの肩にぶつかって校舎に歩いていった。



「だいたい風紀委員があんな髪色でいいわけ?」

「いやそれ。アユリちゃんに似てるからって調子のってんだよ」



むりだ、だめだ。

もうやめる。

もうわたし風紀委員やめる!!



……なんて、心に誓うまでがセット。

いつもの流れ。

もはや朝のルーティーン。






「おはようございまーす……ぐすっ、」



今日も今日とて不本意ながら。


わたし、八尾(やお)ましろは

風紀委員をやっています。


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