キス、涙々。
「そもそも、連絡先すら知らないんだ」
「俺も俺もー学校では口頭で事足りたしねー」
「あ……」
その言葉にはっとする。
わたしもだ。
わたしもハギくんの連絡先を知らなかった。
「誰か知ってる人いないのかな」
「さあ……どうだろう」
「たぶんいねーと思うよー」
もうひとりの男の子がわたしを指さした。
「だってましろちゃんでも知らないんでしょ?だったら誰にも教えてないと思うね、俺は」
「そう、なのかな……」
ハギくんはいつもニコニコしていて、愛想もよくて。
ちょっと風紀は守らないけど、それでもみんなの人気者。
そんな彼の連絡先を誰ひとりとして知らない、なんて。
……そもそも、それ自体が間違っていた?
わたしの知っているハギくんと、みんなの知っているハギくんが別人だとしたら?
本当の“萩さくら”を知っている人が、だれもいないとしたら。