キス、涙々。
「宮城くん……ハギくんはなにを隠してるんだろう」
わからない、と首をふる宮城くんはやるせなさそうに唇をかみしめた。
いつまでもここにいても迷惑になるだけだ。
立ち去ろうとしたら、「八尾さん」と呼び止められてわたしは振りかえった。
「さくらは俺に対して言ったわけじゃない、たぶん」
「え……?」
「あのとき、俺が聞いてしまったのは偶然だったんだ」
なんのことを言っているのかわからない。
言葉の続きを待つわたしに、宮城くんはいちど口を開いて、閉じる。
そして決心したようにもういちど唇を動かした。
「──────“帰りたくない”」
宮城くんの声がハギくんの声で再生される。
教室の片隅、頬杖をついて校庭をながめながら。
揺れるカーテンにほおを撫でられ、誰ともなしにそうつぶやく。
まるでその場に居合わせたような気持ちになったけれど。
それでもハギくんの見つめる先は……わからなかった。