キス、涙々。
「あいつのこと好きなの」
「……わからない、けど」
「けど?」
「今のままじゃモヤモヤするの」
「ほーお」
ぱたん、ぱたんと一定のリズムで判が押されていく。
慣れた手つきの作業はもうすぐ終わりそうだった。
「いま、ハギくんがなにしてるかわかる……?」
「そりゃバイトだろ」
「え?」
「母親ひとりじゃ荷が重いこともあんだろーな」
「それ……どういうこと?」
そこでようやくわたしを見た加賀屋くんは、自分が口を滑らせたことに気づいた。
「八尾には教えてると思ったんだけど」
「ハギくん、母子家庭なの?」
「なにも聞かなかったことにしてくれ」