キス、涙々。
どうしようと戸惑ってしまう。
だって、そういうわけにもいかない。
重大なことを聞いてしまった罪悪感はある。
だけど待っていても、ハギくんはこのことを教えてくれなかったと思う。
あの人はわたしになにも明かしてくれない。
ぎゅっと唇をかみしめる。
そんなわたしを見あげて、加賀屋くんはふっと息を吐いた。
「俺が泣かしたみたいになるな」
「ハギくんに会いたい」
「……あいつはその言葉だけで充分だと思うよ」
八尾の、その言葉だけで。
直接言ってやれよ。
こんなところで、俺に言うんじゃなくて。さくらの前で。
判を押し終わった書類をしずかに整える加賀屋くん。もうそれ以上、なにも答えてくれることはなかった。