キス、涙々。


「ハギくん、」


記録をつけていた手が止まる。


昨日、加賀屋くんはよく手を止めずに話せたな。

そんな器用なことわたしはできない。




「わたしのこと嫌いになっちゃった……?」

「俺がヤオのことを、嫌いに?」


復唱した彼は目をまん丸にして、すぐにおかしそうに笑い出した。



「な、なんで笑うの」


わたしは本気でそう思ってるのに。

本気で心配してるのに。


ひとしきり笑ったと、ハギくんはまるで付き物がとれたような顔になる。



そしてわたしの髪をすっと梳いた。


優しい手つき。


その奥にある目はもっと優しい、穏やかな目をしていて。




「昼、すこし話せる?」


「……うん」




バインダーを持ったまま、わたしはこくりとうなずいた。



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