キス、涙々。


どうやら母さんは俺のことを父さんだと思いこんでいるらしい。

そのことに気づくのにそう時間はかからなかった。


とはいえつねに父さんと重ねているわけじゃなくて、「母さん」と呼びかければ俺が息子であることに気づく。そんな感じ。



あ、1限目のチャイム鳴ったね。どうする?



……いい、って。


優等生のましろちゃんがサボりー?



うん……わかった、最後まで話すから。


ええと、どこまで話したんだっけ?




俺が父さんの真似するようになったとこから、かな。


なんでって、そうするとあの人の調子がよくなるんだよ。


普段は家に閉じこもってばかりだったけど、たまに外に出るようになんの。



だから俺は父さんになれるように努力した。


俺がつねに無表情でいるのは、父さんがそうだったから。

ヤオの前では笑顔でいたから、あんまり想像つかないだろうけどね。



でもさ、俺、あんまり父さんのこと知らなかったんだよ。


父さん、ほとんど家に帰ってこなかったから。


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