キス、涙々。




遠くでチャイムが鳴った。それが何限目のものなのか、もうわからなかった。


わたしの目の前でハギくんが苦しげに顔を歪めている。

それでもその目には涙のひとつも滲んでいなかった。



「泣かないよ、わたしは」

「なんで」

「……絶対に泣かない」



「だから、なんでだよ……」


もっと苦しそうに掠れるハギくんの声は、わたしの胸までもしめつけてくる。


本当はすこしでも気を緩めたら涙が出てきそうだった。

それでもこうして堪えるのは、ここで泣くべきなのはわたしじゃないからだ。


ここでわたしが泣いたって、なんの解決にもならない。


ぐしゃりと自分の胸のあたりを荒々しく掴んでいたハギくんの手に、自分の手を重ねる。振り払われなかったから、わたしはすこし力をこめた。


想いが伝わるように。

触れあった手から、心に、わたしの気持ちが流れるように。


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