キス、涙々。


そうすることで俺は自分を守っていた。

現実から目を背けていたのは、なにも母さんだけじゃない。


俺だって、嫌なことからいつも逃げてばかりいた。


胸が圧迫されるように苦しくなってくる。

なんで俺は、ヤオに話そうと思ったんだろう。

どうして、こんなどうしようもないことを明かそうと思ったんだろう。



「どうしたらいいか、わからなかった」

「……うん。わからなかったよね」

「いきなり父さんが死んで、母さんがおかしくなって。あっという間だった」

「……うん」


引きつる顔を片手で覆う。

自分がどんな顔をしているのかまったくわからなかった。



まだ……いまなら戻れる。


自分の心を隠して、ずっと深くに押しこんで。

ぜんぶ冗談だと笑い飛ばして、何事もなかったかのように笑え。


笑え。


笑え!








「ヤオ。俺……もう限界かも」



目から溢れるそれに。


……もう、気づかないふりはできなかった。



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