キス、涙々。


しん、と辺りに静寂がおとずれる。

ハギくんのお母さんは顔をふせて、両手で覆っていた。



「ヤオ」

「ハギくん……わたし、」


余計なことを言ってしまったかもしれない。

というか、たぶん、言った。


首を突っこんで、言いたいことだけ言って。

さすがのハギくんも怒っているかと思ったのに。


振りかえった先にあったハギくんの顔はひどく落ち着いていた。


すこしだけ赤くなっている目の下が夕焼けに照らされている。




「今日はやっぱり帰るよ」

「でも」

「目をそらしてるのは、俺もだったからさ」


苦しげに胸のあたりを押さえているハギくんのお母さん。


そんなお母さんを一度見やって、ハギくんはわたしを抱きしめた。


いつもより優しく、まるで大切なものに触れるような。




「ヤオは俺に勇気をくれた」


ありがとう、と。

ほとんど吐息のような言葉が、空気にまぎれて消える。



「っ、」


胸がどうしようもなく甘く疼く。


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